料理すること、食べること。管理栄養士 廣野沙織のブログ

科学的に美味しく料理をつくる方法と、食べ物の栄養効果について、レシピ付きで分かりやすく解説しています。

煮物は冷めるときに味が染みるというのは本当?科学的に紐解いてみた

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こんにちは!管理栄養士の廣野沙織です。

みなさん、「煮物は冷めるときに味が染みる」という台詞を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
冷めるときに味が染みるというのは、その捉え方の違いで正しいかどうか変わってきそうです。調理科学の研究に携わっていた筆者が、「煮物は冷めるときに味が染みる」を科学的に紐解いてみたいと思います。

 

 

味が染み込む=調味料の拡散

何となくイメージできるかもしれませんが、「味が染み込む」ということは、塩や砂糖などの調味料が食材の中に拡散(移動)していく現象です。

この拡散という現象は、温度が高いほうが速いという化学の原則があります(フィックの法則)。

この原則に従うと、調味料は高温の方が移動するスピードが速く、味の染み込みも速いということになります。

 

つまり、「煮物は冷めるときに味が染みる」というのを
「冷めるときの方が、(高温に比べて)味が染みやすい」と解釈してしまうのは誤り・・・ということになります。

 

ポイントは「時間」

大根やじゃがいものような根菜類を煮汁に入れて煮た時、
ちょうど良い「味」になるまでの時間はちょうど良い「硬さ」になるまでの時間より長い[1]ということが分かっています。

ということは、ちょうど良い硬さになっても、味の染み込みは不十分ということです。

 

では、味をちょうど良くするためには、どうしたら良いのでしょうか。
前に書いたように、物質の拡散は高温のほうが速いのですが、
ずっと高温にしてしまうと、軟らかくなりすぎて美味しさが損なわれてしまいます。

 

そこで「時間」を置くという方法になります。
火を止めて冷ましながら置いておけば、軟らかくなりすぎたり煮崩れすることを防ぎながらも、味は染み込ませることができます。

温度を低くすることで、味の染み込むスピードは遅くなりますが、硬さの変化を気にせず長時間(数時間~一晩など)を置くことができるのです。

 

「煮物は冷めるときに味が染みる」
→「冷めるときには長い時間かけるので味が染みている」というのは正しい解釈です。

このことを実験的に明らかにしている研究[2]もあるので、興味ある方はご覧になってみてください。

 

長時間置けない時はどうすれば良い?

ここまで説明したことを踏まえると、次のような考えは誤っていると分かります。

 

×「ご飯の時間まであと30分・・・煮物は冷ました方が味が染みるから、冷蔵庫に30分入れておこう」
→同じ30分なら、高温の方が早く味が染みます。

 

一般に大根のような根菜類は、80℃以上で軟らかくなってしまうので、
80℃以下の温度にしながらも、なるべく高温を保つことで早く味を染み込ませることができます。

※細胞壁成分ペクチンが分解することが軟らかくなる原因です。

 

厳密に温度をキープすることは難しいので、実際にこれを実現するには余熱を利用することがおすすめです。

食材が少し硬めの状態で火を止めます。100℃→80℃くらいまで温度が下がる際に食材は軟らかくなり、味も比較的速く染み込んでいきます。

その後80℃以下に冷めてくると、硬さはほとんど変わりませんが、味の染み込みは継続します。60~70℃くらいをキープできれば、味の染み込みは冷蔵庫の温度の何倍も速いはずです。

 

「煮物は冷めるときに味が染みる」の解釈

煮物を冷ましておくときには、長い時間かけているので味が染みる。
これが「冷めるときに味が染みる」の正しい解釈だと思います。
決して、冷ますときの方が温かい時より味の染み込みスピードが速い、というわけではない・・・ということですね。

冷まして味を染み込ませる方法は、煮崩れしにくく失敗の少ない方法と言えますが、そんな時間がないという時もありますよね。

そのような時には、「時間」と「温度」の兼ね合いに注意しながら、「硬さ」と「味」に着目すると美味しい煮物が作れると思います。

ぜひ参考にしてみてください!

 

参考

[1] 佐藤瑶子(2014)根菜類の硬さと調味のシミュレーション, 日本調理科学会誌,47,119-125

[2] 畑江敬子, 奥本牧子(2012)食品の保温温度が食塩の拡散に及ぼす影響, 日本調理科学会誌, 45,133-140